北斗旗全日本空道体力別選手権/全日本空道シニア選手権レポート

昨年12月の第5回世界大会終了後、初の全日本体力別選手権。

それは前の日本代表をリセットする大会であり、4年後の日本選抜へ向けスタートラインとなる大会でもある。

それゆえ世界大会で-260優勝の清水亮汰、準優勝の加藤和徳、-230準優勝の中村知大以下、山崎順也・谷井翔太・岩崎大河・菊地逸人ら世界大会出場組が出場しない中で、新勢力がしのぎを削る闘いが続いた。

シニア選抜選手権は、「シニア指数(身長+体重-年齢)」によって上限8人のトーナメントとなる階級を決め、その中では基本的に体力指数(身長+体重)の小さい順に並べるという組み合わせ法となっている。つまり年齢が高ければその分だけ軽い階級に属し、1cm身長が低ければ1kgだけハンデが与えられる。今大会は48人の参加だったので、8人の組み合わせで6階級の王座が争われた。決勝戦も、基本的には本戦決着(全試合を戦って上限4戦となるよう配慮)とする申し合わせで行われた。

 

<シニア軽量級>

糸永直樹(草加)/水野栄治(多賀城)

本命と目される二人が決勝に勝ち上がった。

糸永は寝技巧者だが、緒戦でサウスポーの相手に対し右アッパーや右ロングフック、バックハンドブローなど多彩なパンチで効果3を奪い完勝するなど、打撃のみで決勝に進んだ。

対する 水野は接近戦でのパンチ連打で圧倒的な力を発揮し、2016年にも全日本選抜で優勝を飾っている。

糸永はインローからジャブ、左前蹴り、左ハイと、接近戦で連打する間合いを水野に与えない戦略を徹底する。近づくとすぐに組み、水野は焦れる表情に。糸永に旗三本上がったが引き分け・延長へ。

糸永が遠い距離を保つ展開で跳び二段蹴りまで繰り出す。タックルのフェイントからロングフックと自在の攻撃。中盤をすぎた辺りでタックルで下になり、草刈りからマウント、腕ひしぎ十字固めで一本勝ち。流れるような寝技が爆発した。

同年代・同体重の一般部レジェンドとの一戦を期待させるほど、シニアでは図抜けた力量を示した。

 

<シニア軽中量級>

一回戦で昨年-180優勝者である桐田と北斗旗全国大会一般部に出場経験のある甲斐が当たり、トーナメントの山場かと思われた。それをひっくり返したのが菅。襟を持ちながらのパンチ連打で甲斐に勝ち。一方の鈴木もボーアンドアロー・チョーク(脚持ち送り襟絞め)で一本勝ちするなど多彩な技を見せ、決勝進出。

鈴木秀夫(大阪南)/菅剛志(横浜北)

両者サウスポー、組んでからの前蹴りや頭突きといった組み打撃戦が見どころとなった。

終盤、鈴木が前蹴りフェイントからワンツーを決め、効果にはならなかったが5-0で判定勝ちを収めた。

 

<シニア中量級>

2018全日本シニア軽中量級王者の平石からパンチ連打で効果2を奪った中村と、柔術黒帯の和田を破った吉永が決勝進出。

中村公俊(名張)/吉永直樹(高尾)

組んで吉永の膝蹴りに対し、中村が頭突きで応戦、離れての打撃でも一進一退の好勝負となった。吉永が右でふらついたが前に出たところに中村のクロスカウンターが直撃。吉前が倒れて中村が効果奪取。中村の判定勝ちとなった。

 

<シニア軽重量級>

シニアで数多くの優勝を飾った佐藤順が大本命かと思われたが、白井がカウンター狙いで効果を先取。佐藤の膝蹴り猛攻を凌いで決勝進出。一方の加藤は圧勝で決勝へ。

加藤隆行(新潟)/白井克明(神戸)

加藤右、白井左構えの喧嘩四つ。白井がじりじり出るのに対し加藤が下がりながらミドルからパンチの連打で効果を奪う。白井は実は右が利き腕なのか、ステップインすると右構えになり、ストレートで効果取り戻し、組んで押し倒す。互角の熱戦で延長へ。

加藤のミドルがヒットするが白井がつかんで押し倒す一進一退の攻防で、加藤が残り5秒のタイミングで首を取り、アッパー連打。効果2-1で加藤の勝ち。

 

<シニア重量級>

カラテ他流派で県王者の実績を持つ辻が、2018シニア軽重量級覇者の新出を延長で破って決勝進出。元同門の横山とは関東大会で2度対戦、ともに横山が制しており、リベンジを狙う。

辻一磨(お茶の水)/横山智樹(行徳)

序盤は互いにローで探る。辻が前に出続けるが横山がパンチこつこつ当て、辻が二度押し倒すという展開に。しかし寝技では横山が抱きついて何もさせない。

そのまま判定となったが、2-2で主審が横山のパンチを支持、横山が僅差の判定勝ちとなった。

 

<シニア超重量級>

110kgの諏訪は左ガードを高く上げてジャブ、そこからの右ストレートという得意の型を持つ。対する矢上は殴り合いの接戦を勝ち上がってきた。

矢上太郎(仙台東)/諏訪一郎(広島中央)

序盤、ジャブの相打ちで30kg軽い矢上は大きく後ずさる。諏訪は防御がガードのみのため、矢上の左右連打に棒立ちに。矢上が効果先取。諏訪が反撃するも単発で、矢上が組みからの頭突き連打で応酬する。闘志と運動量で矢上が制した。

 

<女子220以下>

大倉・小柳・作田という世界大会代表クラスが欠場、渡邊・小西という実績ある二人が注目された。ところが関東大会で男子顔負けの獰猛な闘いぶり見せた熊谷と三好が全日本大会でも熱戦を披露、三好の一本背負いに熊谷がロングフックからのハイで対抗、会場の声援を浴びた。

渡邊に優勢勝ちした熊谷がこの階級を制した。

 

<女子220超>

絶対王者として世界大会での戴冠が期待された大谷と、ナンバツーの今野が欠場。

数々の優勝が飾った吉倉、2018世界大会にはジュニアで参戦した末永が本命かと思われたが、チツァレフ・タチアナが両雄を破る番狂わせ。パワーの吉倉が体力を失った印象が残った。

タチアナはインローから左ハイ、つかみでは回してパンチと、迷いのないコンビネーションを見せる。末永からもパンチおよびマウントで効果2を奪って優勝した。

 

<230以下>

谷井・中村知といったライバル不在の中、世界大会ではエースとしての期待に応えられず入賞をも逃した目黒が、北斗旗歴代最多に並ぶ5連覇を賭ける。10代の新鋭に混じって1992年のこの階級の覇者・朝岡秀樹(お茶の水支部長、49歳)が挑む。小野・荒井・星・ソムチャヌアナーが横一線か。

朝岡は左ストレートから前襟を盛んに狙い、肘・タックルといった総合格闘技色の強い闘い振りで一回戦を突破。しかし2回戦の小芝戦では疲労の色が濃く、前方回転から膝を狙ったが上を取られて制された。

組むと左右の首投げで小野を投げた荒井に対し、小芝は準決勝の延長で首投げ一閃、一回転させて優勢勝ち。決勝に進んだ。

一方は目黒が順当に決勝へ。ソムチャ・ヌアナーは目黒のハイをつかんで倒れ、アキレスを狙うという研究成果を見せたがそこまで。遠い間合いでワンツーをシャドーするように打ち、実際に当てるのはインロー。相手がしびれをきらせてパンチで入ってくるとハイを合わせる。相手が脚をつかむと体重をかけてのしかかる。相打ちになる可能性のあるパンチの打ち合いには可能な限り応じず、組むとすかさず投げる。この穴のなさが連覇の秘訣だろう。

目黒雄太(長岡)/小芝裕也(関西宗)

昨年の日本代表同士の対戦。似た仕草の二人、ともにワンツーのシャドー、ミドルを捕まれると膝を落として体重をかける。

目黒が遠い間合いのミドルを左右で連打する。小芝がパンチで突っ込んだところ、目黒が腰に手を回して大きく大腰で投げ飛ばす。柔道でも滅多に見られないほど大きく空中で1回転し、キメ。ここは投げとキメで効果2が妥当か(それならば本戦決着)。

さらに目黒が強いミドルからハイ、ハイで押し出したところで延長へ。

目黒が左首投げから寝技に持ち込むが場外。目黒は膝の連打から左釣り込み腰、キメ。この投げはさほど見栄えがよくなかったので効果1は妥当か。合計効果2で、目黒が堂々の5連覇を達成。谷井欠場では、まだ他の選手とは相当に力量差があるように感じられた。

 

<240以下>

世界大会に出場した曽山と服部が同じブロック、準決勝でつぶし合うのがこの階級の山場かと思われたが、見事にひっくり返したのが寺口だった。一回戦は効果4で圧勝したが、2回戦で対戦した曽山からは引き込んで後転からマウント、十字の猛攻を受ける。ところが畳のズレたところに穴があり、曽山が足首を痛めるアクシデント。4試合後に再戦も、痛い脚を狙って寺口が非情のローを連打し続行不可能に。続く同門の服部戦では、右ストレートで効果を奪った寺口が延長を制し、金星を上げて決勝に駒を進めた。

一方のブロックでは袖車絞めで一本勝ちした鈴木渓と伊東駿がバチバチの殴り合い。鈴木が効果1を先取したが、伊東が手を上空でゆらゆらさせて大歓声を誘い、ボディを効かせて判定勝ち、決勝に進んだ。

寺口法秀(横浜北)/伊東駿(仙台東)

双方激闘型のフレッシュな一戦。寺口はローからパンチのワンツー、さらに左ハイとロシア人を思わせるコンビネーション。少年部出身者は距離で戦うというセオリーに反する、「昭和」の匂い漂う組み手が特徴だ。一方の伊東も打撃が鋭く好戦的。

寺口は後ろ回し蹴りを織り交ぜるなど焦点を絞らせない。伊東がタックルを仕掛けたところをつぶしてキメで効果1奪取。脚が絡んでいるという指摘もあったが、キメの強さが印象的で効果に異論はないところ。

延長では、寺口が帯をつかみ大腰の体勢でひねり潰す。下になっても立ち上がって、またひねり潰すという展開でスタミナを奪う。さらに組みから大内・小内と連発し、荒々しい組み手で新王者となった。万全のスタミナからは稽古の充実ぶりがうかがわれたが、それ以上に「何が何でも勝つ!」という必死さが伝わってきた。全日本王座は取り逃すとズルズルと何年も取れないことも稀ではない。チャンスを一回で生かした寺口の勝負勘が光った。

 

<250以下>

2005体力別王者でもあり世界大会にも2度出場経験のある笹沢も、すでに34歳。昨年の世界大会に出場し全日本体力別も準優勝の安富北斗とともに決勝に勝ち上がるかと思われた。これに待ったをかけたのが、日本拳法出身者で黄帯の玉木。ストレートで効果、クロスカウンターで効果を連取、笹沢から金星を奪った。玉木は日本拳法特有の低い構えから強烈なパンチを繰り出し、富田からも効果3を奪い、ダークホースながら決勝に進出した。

一方の安富は猛威を振るう少年部出身者。右ボディからの左フック、組んでは左払い腰が冴える。準決勝では近藤に左右ローを効かせ、効果奪取で決勝に進出した。

安富北斗(総本部)/玉木直哉(横浜北)

軽妙な安富と強烈な玉木の打撃戦になるかと思われたが、玉木がカウンターのジャブやストレートを狙うのに安富は乗らず、ローで対応。安富はもっぱら膝蹴りから左払い腰と組みで勝負を賭ける。

延長戦でも抱き合うと安富が小外掛けで浴びせ倒す。この組み勝ちが好印象を与えた。終盤、玉木の右ボディからの左フックで安富の動きが一瞬止まったものの、組むと執念でひねり倒す。安富の投げ・キメ、玉木のフックと効果1-1で、判定は4-1で安富に。玉木も打撃が強烈なだけに、組みを覚えると決勝の常連となりうると確信させる闘いぶりだった。

 

<260以下>

誠真会館所属、吉祥寺支部で稽古する加藤兄弟。その兄の階級ではあるが欠場、代わりに弟・智亮が階級を上げて王座を狙う。一方は「無冠の帝王」、強烈な寝技の決め力を誇るだけでなく、このところ「巌流島」や人知れずキックの大会にも出場している渡部秀一が核と目された。

加藤は遠くから当てるミドルで距離を取り、近づくと首をつかんで膝から倒しキメ効果と、ほぼ相手を完封する。白帯のエフェヴィガ・ヤニック・雄志は長い手足からのトリッキーなパンチ、 走っての跳び膝と天賦の才を見せるが、加藤にはまだ通用せず。首相撲からの膝蹴りが効いて効果2を奪い、決勝進出。

一方の渡部は強引に前に出て、捕まえて膝・肘で効果を奪う展開。準決勝の小松との闘いでも強烈な腕ひしぎ十字固めで一本勝ち。相変わらず決めが強い。

加藤智亮(誠真会館)/渡部秀一(岸和田)

柔と剛の対照的な組み手だが、本戦から渡部がいきなりジリジリとプレッシャーをかける。加藤が蹴りの距離をセットする前に右ストレートを打ち込み、距離を取らせない。そのまま組んでも渡部は前に出て、膝蹴り・頭突きから押し倒し、ペースをつかむ。

加藤がハイを繰り出してもその前に渡部がストレートで距離を縮め、当てさせない。本戦後半で加藤は蹴りで距離を取るのでなくパンチにパンチをあわせるように方針を変えた。

延長では渡部がミドルを連打、倒された加藤が渡部の得意技であるアキレス腱固めをしっりかわし、立とうとするものの渡部は執念のオモプラッタ。肩が極まりそのまま十字か三角絞めに移行するかに思われたが、ここで加藤が上から顔を蹴り、反則1が与えられた。

ここで立ちからの再開となったが、これだと反則を犯した方が寝技から脱出できることになってしまう。完全に極める展開を立たされた審判判定は大きく、渡部は最大のチャンスを奪われた。

そのまま相互に打撃戦を繰り広げるが、効果1-1で加藤に旗が3本上がり、副審・主審判断で引き分け・再延長へ。

極めるチャンスを奪われて立ち上がらされた渡部のスタミナ切れは明らかで、またしても王座は遠のいたかと思われた。ここで信じがたい神風が吹く。この日再三試合を中断していた監査役が、ここでも長時間審判を呼びルールブックを掲げて指示を出したのだ。内容は「延長では反則が少ない方が勝ちという規定がある」というものだが、再判定を行ったものの渡部に旗が3本上がり、主審・副主審が引き分けとして再延長に入るという結果は変わらない。

形式だけの協議でせっかくの盛り上がりが冷え込んだが、ここで渡部は俄然スタミナを回復した。切れかかっていた気も持ち直し、再々延長再開。渡部が自分から引き込んで下になると、下から強烈な腕ひしぎ三角固めを極めて見せた。渡部の劇的な一本勝ちで大会最後の試合が終わった。

 

<260超>

エントリーは4人だが、目黒毅が棄権。さらに岩崎大河をアジア大会で破った一戦で注目されたイ・ウンチョル(プサン)が初戦で膝を痛め、棄権。勝った奈良朋弥(青森市)がそのまま優勝を飾った。国内では人材が不足する階級なので、全日本体力別では-260と合併させる工夫が必要になるだろう。

最優秀勝利者賞は、シニアは糸永直樹、一般部は渡部秀一が獲得した。

最優秀道場は菅・寺口・玉木の3名を決勝に送り込んだ横浜北支部へ。第二位には行徳・東中野、岸和田の各支部が選ばれた。ベスト審判賞は小川英樹主審が受賞した。