2023全日本空道無差別選手権大会 全試合ダイジェスト &全日本空道ジュニア選手権大会ダイジェスト

文責 全日本空道連盟広報部・朝岡秀樹

写真 全日本空道連盟広報部  はいチーズ!フォト

画像はクリックすると拡大表示されます。

1回戦

成田夕介(白・大道塾札幌南支部)が組んでの肘打ちなどで健闘するが、佐々木龍希(大道塾総本部)は投げからのキメ、右フックでそれぞれ効果を奪い、ポイント2-0で本戦勝利。

 

小芝裕也(青、大道塾岸和田支部)の回し蹴りをキャッチした大西凜駿(大道塾横須賀支部)は豪快なリフトから、頸椎の過屈曲・過伸展を起こす危険性のない角度でランディング。本戦旗判定5-0で勝利を収めた。

月東玲真(青・大道塾草加支部)のアキレス腱固めを耐えた佐々木惣一朗(大道塾仙台東支部)は、スピードあるパンチをヒットし、本戦旗判定5-0で勝利。

 

目黒雄太(白・大道塾長岡支部)は、左中段回し蹴りで三鬼裕太(大道塾御茶ノ水支部)のレバーを捕え、首投げを決める。本戦旗判定5-0で勝利。

遠藤春翔(青・大道塾御総本部)は、横山智樹(大道塾行徳支部)からマウントパンチ、足技からのキメ突きでそれぞれ効果を奪い、三角絞めを極めかける場面もみせ、本戦ポイント2-0で勝利。

 

藤根光一朗(白・大道塾仙台中央支部)がタックルでテイクダウンを奪うなど先制し、林洸聖(大道塾佐久支部)は、テーピングで固めている足を引き摺る様子をみせる。万事休すかと思われたが、林は試合中盤に右フックで効果を奪うと、続いて右フックでダウン(有効)、さらに右フックで効果を奪い、ポイント4-0で本戦勝利。足のテーピングはセーバー病と呼ばれる持病による踵の痛みを抑えるためのものとのこと。

 

平田裕紀(青・大道塾東中野支部)は内回し蹴りをヒットさせ、伊東宗志(大道塾日進支部)と譲らぬパンチのラリーを展開。本戦は副審の旗が3本伊東に挙がるものの、副主審・主審は引き分けを支持。延長で疲れのみえはじめた平田に対し、伊東は右ストレートとマウントパンチでそれぞれ効果を奪い、ポイント2-0で激戦を制した。

 

佐川太郎(白・大道塾仙台東支部)は中上悠大朗(大道塾総本部)に右フックで効果を奪われ、本戦旗判定5-0で敗れたが、19歳のホープの猛攻に対し、終盤、タックルを決めるなど48歳にして猛追をみせた。

 

寺阪翼(青・大道塾総本部)は首相撲からの膝蹴りで効果を奪い、旗判定5-0で髙島良太(大道塾西尾同好会)に勝利。

服部晶洸(青・大道塾横浜北支部)は、左ミドルをヒット。タックルが崩れ、亀になった中村凌(大道塾日進支部)を押さえつけてのキメ打撃で効果を奪い、旗判定5-0で勝利。うつ伏せやいわゆる亀の体勢の相手に威力十分と考えられるフォームで打撃ジェスチャーを連打すればポイントが入るルールは、タックルや投げの“掛け逃げ”を抑止するのに効果的と考えられる。

本戦、並木仁也(青・大道塾御茶ノ水支部)の膝蹴りを凌いだ飯田諭(大道塾大宮西支部)は、テイクダウンからニーインベリーでのキメ打撃で効果を奪い、副審3人の旗を得るが、並木がクローズガードから強烈な顔面キックをヒットさせていたこともあり、副主審・主審は引き分けを支持。飯田は、延長で右フックによる効果を追加し、ポイント2-0で振り切った。

 

小野寺稜太(青・大道塾総本部)は「なるほど、これがスピードスケート競技出身者の動きか」と思わせる重心の浮かない下段蹴りのカウンターで八幡義一(白・大道塾御茶ノ水支部)の出鼻を挫き、投げからのキメ打撃、ニーインベリーでのキメ打撃でそれぞれ効果を奪い、ポイント2-0で本戦勝利。


西尾勇輝(青・大道塾大阪南支部)は得意の右ロー、右ストレートに加え、ハイキック、膝蹴り、マウントと攻め立てるが、永見竜次郎(大道塾安城支部)も怯むことなくパンチで応戦し、両者ポイントなく旗判定5-0で西尾が勝利。

 

 

ジャブのハンドスピードにキレをみせる伊藤新太(青・大道塾日進支部)が本戦旗判定5-0で沼井宏徳(大道塾横浜北支部)に完勝。

 

麦谷亮介(大道塾行徳支部)が大会前日、子どもを抱っこした際に急性腰痛症(いわゆるぎっくり腰)に見舞われ、無念の棄権。こればっかりは防ぎようもなく、天の思し召し。杉浦宗憲(大道塾日進支部)の不戦勝となった。

体力指数269(183センチ+86キロ)の辻野浩平(青・大道塾岸和田支部)は、体力指数293(177センチ+116キロ)の大里祐人(大道塾香取支部)に掌底でストレート、フック、アッパーの乱れ打ちを浴びせ、本戦旗判定5-0。

2回戦

佐々木龍希(青・大道塾総本部)が背負い投げ→キメ打撃により、試合開始後、20秒で効果2つを奪取。その後、大西凜駿(大道塾横須賀支部)もレスリング競技経験を活かした豪快な反り投げを決めるなど猛反撃するが、ハイスパートな一進一退の攻防の末、本戦タイムアップ。ポイント2-0で佐々木の勝利となった。SNSで公開された映像の再生回数が万単位となった一戦。強く鮮やかで、かつ立位を保ち、頸椎に負担を掛けない角度での投げに効果を与え、一方で、自らの頸椎に負担の掛かる角度での投げを頭部が着地するまで解かなかったことが違反行為ではないかと審議するなど、審判団の正確な判断も好勝負誕生をアシストしていたか、と。渡邉慎二主審が5年ほど前、当時高校生で全日本予選に特例出場した大西を50歳代半ばにして下していたこともドラマの一端のように感じる。

目黒雄太(白・大道塾長岡支部)は、立っては掴んでの頭突き、寝ては下からの襟絞めと、空道ならではの技を駆使し、佐々木惣一朗(大道塾仙台東支部)を本戦で絞め落とした。昨年U19全日本で春秋連覇を果たし、一般に昇格してきた新鋭に大人の世界の厳しさを教えるかの如く。

遠藤春翔(青・大道塾御総本部)vs林洸聖(大道塾佐久支部)は、右ストレートをヒットさせた林が本戦で副審の旗3本を得るも、副主審・主審は引き分けを支持。延長で遠藤がハイキックや支え釣り込み足を決め、旗判定5-0で逆転勝利。

伊東宗志(青・大道塾日進支部)はサイドステップで相手のパンチを躱すとともに構えをスイッチする熟練のスタイルをみせるが、中上悠大朗(大道塾総本部)は一進一退の攻防の中で首投げを決めるなど要所を押さえ、本戦勝利。しかし、旗判定で副審・副主審が全員、中上の勝利を支持していて中上の勝利が確定しているにもかかわらず、主審が自身の判断は引き分けであることを告知するほどの接戦でもあった。伊東は半年前の世界選手権を終えた(-240クラスベスト8)時点では「これで競技生活はひと区切り」と答えていたが、やはり時を経て闘志が再び漲ってきたようで「ワールドカップ(2025年開催見込み)を目指したい」とのこと。

寺阪翼(青・大道塾総本部)は得意の右ストレートで攻めるが、服部晶洸(大道塾横浜北支部)は左フックでレバーを捕え、蹴りをキャッチされれば引き込み返しで上を取る。寺阪勝利の支持が一人、服部勝利の支持が4人のスプリット判定で服部が本戦勝利。

小野寺稜太(白・大道塾総本部)は前戦で相手の襟を掴んでのパンチを強打した際、両拳を骨折しており、蹴りと組み技のみで試合を展開。それでもマウントパンチ、左ハイキックでそれぞれ効果を奪い、最後は首投げ→袈裟固め→腕ひしぎ膝固めで一本。本戦で飯田諭(大道塾大宮西支部)に完勝した。

 

西尾勇輝(青・大道塾大阪南支部)の右ストレートにカウンターの右膝蹴り(いわゆるテンカオ)を合わせ、ハイキックやスナップの効いたジャブで攻め立てた伊藤新太(青・大道塾日進支部)。動きの華麗さでは伊藤が勝っていたようにもみえたが、右下段蹴りをはじめ、重厚な破壊力を感じさせる攻撃でプレスを掛けた西尾が本戦旗判定5-0で勝利。伊藤は2018世界選手権出場後、2023世界選手権の日本代表を争う闘いからは外れていたが、今大会で久々の戦線復帰。31歳と脂ののってくる時期だけに、今後の活躍に期待したい。

 

辻野浩平(白・大道塾岸和田支部)は、掴んでのパンチ、マウントパンチ、右フックでそれぞれ効果を奪い、本戦ポイント3-0で杉浦宗憲(大道塾日進支部)に完勝。

 

準々決勝

関東地区の予選をぶっちぎりの強さで制していた19歳の中上悠太朗(白)と、2022アジア選手権-240クラス優勝、21歳の遠藤春翔のZ世代対決。ハイ、ミドル、ボディブロー…と譲らぬ打ち合いの末、両者ポイントなく本戦から自動延長へ。延長戦終盤の猛スピードのパンチ合戦のなか、左フックの交錯により中上が左肩を脱臼。2分59秒……延長終了まで1秒を残し、遠藤の勝利が決まった。

 

2023世界選手権ー250クラス優勝者・小野寺稜太と、2023世界選手権ー230クラス準優勝者・佐々木龍希との対戦であったが、小野寺稜太が試合を棄権。佐々木の不戦勝となった。

空道における最軽量級-230クラスで全日本V7(コロナ問題などによる不開催年も含めると全日本階級別9年間無敗)を達成している目黒雄太(青)と、今大会出場者において直近大会の最重量階級でもっともよい成績(2023世界選手権-270クラスベスト4)を収めている西尾勇輝の準々決勝は、今大会のハイライトといえる一戦であったが……。西尾が右ストレートで目黒をのけ反らせれば、目黒は自らより22キロ重い西尾を投げ、ハイキックを決める。攻防は互角、あるいはオーディエンス・ジャッジ的にいえばやや目黒優勢ながら、体力指数差が30以上あるゆえに掴んでの打撃が禁止であるルールであるにもかかわらず、目黒は組み合う度に打撃を放ってしまい、警告→減点1→減点2と、審判からのコールを浴び、延長戦終了時点でポイント2-0で西尾の勝利に。「組み合いの状況になったときに、小さな選手が大きくて力の強い選手に投げられずに闘いうるのは、組んでの頭突きや肘を駆使できるからであり、それこそが空道の実戦性に即した部分である。この空道のアイデンティティーたる面を磨けば磨くほど、組んだ瞬間、反射的に打撃が繰り出されるようになるのだから『体力指数差20未満だと金的攻撃は一切なし。体力指数差20以上30未満だと金的蹴りはあり、でも片方もしくは双方の選手が相手を掴んだ立ち技の状態では頭部と上肢による打撃は禁止で下肢による打撃は禁止。体力指数差が30以上の場合は離れた状態では拳や掌底でも下肢でも金的打撃を行ってよいが、片方もしくは双方の選手が相手を掴んだ立ち技の状態では頭部や上肢による打撃も下肢による打撃も一切禁止。前提として、金的への打撃は、あらゆる体力指数差状況においても、寝技では禁止で、立ち技において用いる場合も、打撃のコンビネーションの一環(繋ぎの技)としてのみ認められ、連続的に放つこと、ノックアウト目的で放つことは禁止』という複雑かつ曖昧なルール変更に対応せよというのは、無理があるのではないか?」という声が聞かれるのも当然だし、大会後のインタビューで金的打撃ありのルールを闘った選手に「金的を狙ったか?」と訊いても、誰からもイエスの回答がなかったことから考えても、このあたりのルールは、理論・理念上の理想を追い求めるという面と、安全性維持という面の中間点を模索したものの、現実的に運用が可能なことなのかどうかという面を照らし合わせていないのではないか? という気もする。一方で「いや、選手たちが、無差別大会を階級別大会以上に大事と考えているなら『体力指数差20未満を想定したスパー』『体力指数差20以上30未満を想定したスパー』『体力指数差30以上を想定したスパー』を、各ルール下において合法の闘いが自動運転的にできるようになるまで、それぞれ積むべき。お祭り的な程度にしか考えていないから、そこまでやりこんでいないんじゃないか?」といった考え方もあるだろうか。今回の大会を機に、議論・検討がなされることを望みたい。「無差別(全日本)は毎年あるわけではないので、今回獲れなかったのはとても悔しいけど、また頑張って獲りたいです」と目黒。

2014世界選手権-270クラス4位入賞後、2018年、2023年と世界選手権2大会が行われる間、活躍がなく、今大会で久々の上位進出を果たした辻野浩平(青)が、タックルや右ローなど、技を散らして体格差を埋めようとする服部晶洸に対し、掌底の一本鎗で応戦し、効果2つを奪い、本戦ポイント2-0で勝利。敗れたとはいえ、服部は前回の全日本無差別(2019年、第3位)に続く2大会連続のベスト8入り。2019年と今回、2大会連続で入賞を果たしたのは、目黒とこの服部のみである。

 

準決勝

遠藤春翔(青)は本戦終了20秒前に左フックをヒットされ、バランスを崩し、1ポイント失点。その後、延長終了までサウスポーからオーソドックスへとめまぐるしくスイッチする佐々木龍希を捕えきれず、旗判定5-0で敗れた。

 

177センチ・88キロの西尾勇輝(青)と、183センチ・86キロの辻野浩平、国内大会のカテゴリー分けにおける最重量階級260+クラスに属する両者は、打撃から寝技まで幅広い攻防が許される空道において、あえてパンチのみで“どつき合う”我慢比べを選択した。西尾が日本拳法出身者ならではの腋の閉まった硬い右ストレートを打ち込めば、辻野は掌底フックで脳震盪を狙う。両者の相打ちに対し、ダブルノックダウンの裁定の如く同時に両者に1ポイントが与えられ、その後も互いに一歩も引かないパンチ合戦が展開されたが、やがて辻野がガクリと一歩後退。これを機に西尾が2ポイントを追加し、本戦で勝負を決めた。

 

 

決勝

体力指数差30以上につき、組んでの打撃禁止で行われた一戦、佐々木龍希(青)は、細かく左右に動きながらローキックやジャブを散らし、ヒットアンドアウェイの展開をつくり、西尾勇輝(大道塾大阪南支部)がどっしりと構えて狙う右ストレートの照準を絞らせない。本戦が両者ノーポイントで終わり、延長戦に突入すると、このままの流れでいけば、無差別大会の醍醐味といえる“小よく大を制す”ドラマが実現するのではないか……という空気が場内に漂いはじめるが、この決勝でも、佐々木はつい、組んだ瞬間に通常の空道ルール下での闘い通りに頭突きをかましてしまい、西尾に1ポイントを献上し、さらに右ストレートを被弾し1ポイントを奪われると万事休す。旗判定なしでの西尾の優勝が決まった。

 

大学卒業までは日本拳法に打ち込み、社会人となってから空道に取り組みはじめ、30歳迎えた西尾は「今回の優勝をもって、競技生活は一区切りとしたい」と言う。スポーツ競技においては「王者は敗れるまで闘い続け、敗れて去っていく」ことが、その競技の王座の価値を後進に継承していくためのひとつの美徳ではあるが、一方で「チャンスの女神は前髪しかない」という厳しさを突きつけることまた、競技に緊張感を与えてくれる。例えば、現在の空道のエース選手といえる岩﨑大河は新人時代に当時の頂点にいた加藤久輝と1度だけ対戦し、その際は旗判定で惜敗し、その後、加藤がプロ競技(MMAやキックボクシング)に転身したため、リベンジの機会は巡ってこなかった。佐々木や目黒が今後「あの2023年の一戦が西尾との最初で最後の対戦となるのだったら、あと少しだけ、反則を犯さないための稽古を積んでよけばよかった……」と歯ぎしりしたとしたら、それはそれで学びを得たということだ。

 

今回、佐々木や目黒は空道における最軽量級、-230クラスの選手でありながら、国内における最重量級260+クラスの選手を相手に牛若丸の如く闘い、喝采を浴びたわけだが、考えてみれば、佐々木は168センチ、目黒は167センチの身長(骨格)がありつつ、体重を-230クラスにエントリーできる範囲に収めている選手である。一方、かつての無差別こそが武道の本分と捉えられていた時代に無差別全日本を制した加藤清尚は163センチ、市原海樹は168センチの身長で、トレーニングにより70キロ、90キロにまで体重を増やし、その偉業を成し遂げていたのであって、フレームの大きさ自体は、佐々木・目黒と同等以下だったのである。加藤や市原ほどの“無差別での強さへのこだわり”が現代の選手にあるかといえば、やはり階級別大会での成果をあげることが優先なのだろう。かといって、無差別を第一に考えろというのは時代錯誤な注文に違いない。

 

「小よく大を制する」という無差別ならではのドラマを期待するオーディエンスを黙らせ納得させるほど、圧倒的な力の差を西尾がみせつけたわけでもなかったこともあってか、今回の大会を振り返り「昔と比べてレベルが下がっている」と評する関係者もいた。確かに、岩﨑大河をはじめ、不参加だった重量級トップ選手がいたため、長田賢一と山田利一郎が鎬を削った90年代前半、セーム・シュルトが猛威を揮った90年代後半、山崎進や藤松泰通が個性を発揮した00年代、加藤久輝や野村幸汰が弩級の闘いをみせた10年代と比べ、今大会終盤の戦線の内容は小ぶりだったかもしれない。かつての64名から、32名に絞ってヤグラが組まれていたことも、縮小感を醸していたか。ただ、一方で、1回戦から多くの試合で、掴んでの頭突きや肘打ち、掌底、柔道的な背負い投げ、レスリング的なスープレックス、襟絞め……と技術が展開されたことは、この競技の40年以上の歴史によるオリジナリティーの醸成を感じさせた。かつては「どのような規模の大会でどんな成績を収めたか」という戦果が他者から評価を受けるためにもっとも重要なファクターであったが、現代は、どんなトリック(技・芸術)を実現できたのかということを、マスコミを通さずとも、動画サイト等を通じてPRし、承認欲求を満たせる時代である。今大会の序盤戦で繰り広げられた佐々木龍希vs大西凜駿、佐々木惣一朗vs目黒雄大、小野寺稜太vs飯田諭といった試合の映像のなかには、公開後数日のうちに10万回以上の再生回数に達したものもある。その視聴者の中の何パーセントかは、やがて競技者となって、この全日本のマットの上に遡上してくるのだろう。今回の全日本選手権では、U19(高校生)全日本で活躍し「上がってきた」若者たちと、シニア(壮年)全日本を制し「下りてきた」ベテランたちと、現在の空道を引っ張る20~30代の選手たちが、拮抗した熱戦を繰り広げた。空道はMMAや日本拳法、柔道、キックボクシングなど幅広い格闘技の技術が活かせる……“空道で会おう”といえる「場」であるだけに、SNS等を通じて興味をもったそれら競技の経験者が参入してくれば、さらに裾野は広がっていくだろう。2024の国民スポーツ大会(いわゆる国体)での競技実施、2025年のワールドカップ、2027年世界選手権での対ロシア戦、2030年の競技50年の記念大会……と、さらなる醸成が進むことを期待したい。もちろん、楽観しすぎていて反省のないのはよくないが、人は何かと悲観しすぎになりがちなので、あえて、この競技には「個人情報がデジタルデータとして残ることに対して過敏となっていく時代において『顔が見えづらい』競技であることが肖像の秘匿性維持に繋がり、やる側にとっての取り組みやすさと相まって、少年・女性・壮年層に普及し、最終的にはそれらの層への普及が20~30代男子層を含めての競技レベルの向上を促していく」素地があることを論じておきたい。

女子 

ワンマッチで行われた女子の試合。渡辺玲那(白・大道塾横浜北支部)が右ストレートで効果を奪い、一方の小関沙樹(大道塾仙台東支部)はヘッドガードを掴む違反行為を犯し警告を受ける。渡辺が旗判定5-0で本戦勝利。小関は半年前の世界選手権日本代表で、渡辺はキャリア1年の選手。番狂わせといってよいだろう。

 

雑感

試合開始時、主審の「構えて」「始め!」のコールの際、構えるアクションに個性を感じさせる選手も多い。目黒は屈む派で、服部は反る派。相撲の塩撒きやムエタイのワイクーのようで面白い。

東孝・大道塾創始師範の名を冠したクリスタルの盾を東恵子・大道塾事務局長より授与される西尾。なお、特別賞を目黒雄太が受賞し、道場別獲得ポイント順位は 1位:大道塾総本部 2位:大道塾大阪南支部 3位:大道塾岸和田支部 大道塾横浜北支部であった。

閉会宣言は、神山信彦・大道塾副長。

入賞者。左から目黒、服部、遠藤、西尾、佐々木、辻野、中上、小野寺、渡辺

併催の全日本空道ジュニア選手権大会ダイジェスト

U19男子250以下クラスで優勝した熊谷慈英(青・大道塾仙南支部)の上段回し蹴り。身体の柔らかい時期に上段の蹴りのフォームを正しく身につけられることは、少年期に競技をはじめることのメリットといえるだろう。近年、U19で活躍した選手は、一般クラス昇格直後から上位進出を果たすケースが多い。この熊谷はまだ16歳。高校1年でU19を制したわけで、一般昇格する2年半後が待ち遠しい。近年の“U19上がり”の選手の大人になってからの活躍をみると「投げも顔面パンチもないフルコンタクト空手ルールに近いルール→投げあり→寝技ありと、小学低学年→小学高学年(U13)→中学生(U16)とルールが変化していき、顔面へのパンチが加わるのが高校生(U19)から」というシステムは、安全性維持による普及と、少年たちの一般の空道ルールへのスムーズな移行を可能とする絶妙な塩梅だな、とつくづく実感する。一方で、U13やU16でぶっちぎりの優勝を連発し「末恐ろしい」と思わせた逸材が、成人までに疲弊し「消えた天才」と化する事例も見受けるので、運営サイドには「ジュニアクラスの指導者や保護者を競技至上主義に走らせない」「心技体の総積が最大となるはずの20歳代後半以降も競技へのモチベーションが維持できるような環境を用意する」ことへの尽力を惜しまぬことを望みたい。

 

 ジュニア選手権入賞者

 

 

 

 

Scroll to top