アジアカップ遠征
稲垣拓一
このたびはコーチとしてウラジオストクに同行させていただきました。
普段の遠征記であれば、諸々の出来事を書きたいところですが、このたびは試合内容のみに限りたいと思います。
帰国後の強化委員関係各位にはすでに送っている内容です。
まず第一回強化合宿より「効果取り」を重視した内容を行ってきました。打ち合いを避け確実にパンチで蹴りでポイントを取っていくこと、寝技に入ったら先ずはマウント、ニーオンで押さえつけ確実に「効果」をとっていくことを徹底してまいりました。これはもうすでに定着し、食事をしたら「ご馳走様でした」と言葉を添えることと同じ位に、当然の作法として今後も徹底していきたいと思います。このたびの試合でもこの作戦は功を奏し、定着した場面を確認できたと思います。
しかし、秋の世界大会制覇の為の内容には程遠い結果となりました。参加選手全員が準決勝以下で敗退。
礼儀作法、護身、先輩を敬う気持ち、武道、スポーツとしての美しい要素を持ち合わせることは当然です。競技だけ、試合だけが空道、武道ではありません。しかしながらやはり格闘技として「強いこと、勝つこと」は不可欠であり、特に国際試合では肌の色も育った文化も環境も、言葉も違う人間同士が殴りあうわけですから、勝ち上がって強さを証明しない限り誰も認めないし、どんな美しい言葉でも納得しませんし、説得力がありません。だから選手にはもっと俗っぽく「勝ちたい」という純粋な強い思いを持っていただきたいと思います。アジアカップでもやはりそうでしたが、ベスト4からが本当の闘いになります。まったく別物となることを再認識していただきたい。
パワーとスピード、どうしようもない圧力に対抗するには、同じものを身につけられれば一番良いのでしょうが、ロシア人と同じものを今から要求するのは難しい。ただし同等に近い体力を身につけ、それが前提の「効果取り」や殴り合いを避けながら殴りあう、蹴りあう技術を身につけることが不可欠です。
今回のアジアカップにおいても、真新しい技や戦方は一つも見受けられませんでした。
ロシア人特有の足を入れ替えながらの直線パンチがありますが、もうすでにかなり意識を高めているので斬新感はありません。後はやはり圧力をかけながらハイスピードかつパワフルに振り回してくる原始的なロシアンフック。これをどう制するか?が最大の課題です。
ベスト4からの闘いは「教えて出来ること」の枠をこえている「教えて出来ることでないこと」を選手それぞれが身につけることが必要なのだと思います。ではそれは何か?
「自覚」と「覚悟」意外にはないと思います。
日本代表になった選手は、体力、技はあって当たり前、まだない者は秋までに身に着ける。身につけられます。そして「覚悟」を決める領域まで行かなければ、優勝することは出来ないと思います。
このたびの敗北は選手だけのものではなく、選手だけに押し付けるのでもなく、我々コーチ陣関係各位の意識も改革し「教えても出来ないこと」をあえて教える、伝えることが我々の使命の一つになると思います。
平和な日本に帰ってきて、また同じメンバーと日々淡々と稽古をしていく。ただし海外の試合場で味わった「熱」を冷ましてはいけない。日本にいる選手、コーチをはじめ関係各位は早くこの「熱」に感染していただいて。選手、関係各位が一丸となること、意識を共有することが秋の世界大会を勝利へ導くことになると思います。まだ時間はあります。このたびの敗北は秋の世界大会制覇への布石と致します。 このたびの遠征期間中お世話になった方々には厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。
更新日 2014.6.22